2020年07月06日
こころに晴れ間を くらしに活力を 遺言 編 vol.4「事例から学ぼう」
みなさま こんにちは! 司法書士の清水です。
当事務所は、2001年に事務所を開業してから20年に渡り、年間800件以上のくらしにまつわる様々な法律相談を受けてまいりました。このブログは、これまでの20年間の実際の経験にもとづき、みなさまのより良いくらしにお役立ていただくためのブログです。
いよいよ7月10日から法務局における自筆証書遺言の保管制度が始まり、当事務所においても遺言に関するご相談がここ最近特に増えております。以前ブログで制度の概要をご案内させていただきましたが、今回は実際に本制度を利用するうえでの留意点等についてお話ししたいと思います。
法務局における保管制度を利用すると、@家庭裁判所における検認(相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,偽造・変造を防止するための手続きのこと)が不要となり、遺言の執行(預金の解約や不動産名義変更等遺言の内容を実現すること)に速やかに入ることができ、かつ検認にかかる負担を軽減できる、また、A紛失や亡失を予防できたり、B悪意のある相続人による改ざん、隠匿(自身に不利益な遺言を相続人が隠してしまうなど)や破棄を防ぐことができます。
しかも、法務局で遺言書の原本を預かるので相続人等に勝手に見られることがありません。このように遺言者本人や相続人、受遺者等に多くのメリットがあります。
一方、メリットばかりに目を向けてしまうと、制度利用ができなかったり、また、利用が好ましくない事案であったために、後日こんなはずではなかったということになりかねません。したがって、メリット、デメリットをしっかり確認し、自筆証書遺言の法務局への保管制度を利用した方が良いか?また、保管制度を利用しない方が良いか(例えば、遺言者本人が寝たきりで法務局まで出向けないなど)?また、公証人が作成する公正証書遺言にしたほうが良いか(例えば、遺言の内容が複雑であったり、紛争性が高い場合など)?自分の置かれた状況や遺言の内容に合わせて最適な方法を選択していく必要があります。
<デメリット・利用するうえで留意すべき点>
1.遺言能力の有無に気を付けること
これはそもそも保管制度以前の問題でもありますが、当事務所にご相談される方のうち、少なからず遺言者本人の大きな病気や体調不良がきかっけで、子などのご親族と一緒に遺言のご相談にお越しになられます。
遺言を有効に成立させるためには、遺言を作成するときに遺言能力(遺言を作成する意味と結果を理解することができる能力)を有していなければなりません。したがって、遺言能力がない方が作成した遺言は無効になります。
大きな病気や体調不良などがきっかけで遺言の作成を希望される場合に、実際に私が自宅や病院、施設などで遺言者本人にお会いすると、意思能力の低下の問題があり、遺言を作成することが困難であるとの判断をせざる得ないことがあります。この遺言能力の有無は保管制度を利用する場合でも同様です。また、後日遺言能力をめぐって相続人間でトラブルになることがありますので、くれぐれもご注意ください。
2.遺言書の本文、作成日付及び氏名は手書きが必要なこと
こちらも保管制度以前の問題でもありますが、自筆証書遺言は、法律の規定により遺言書の本文、作成日付及び氏名は直筆によらなければなりません。したがって、病気や高齢で手が不自由な方は利用が難しくなります。
3.必ず遺言者本人が法務局に出向く必要があること
遺言者本人が必ず予約をしてから法務局に出向く必要がありますので、身体的な障がいがある方や病気で寝たきりの方、入院中の方の利用は難しくなります(一方、公正証書遺言は必要に応じて公証人が自宅や病院等に出張して作成することができます。)。
また、出向く法務局は、どこの法務局でもよいというわけではなく、遺言者本人の住所地や本籍地、所有不動産の所在地のいずれかを管轄する保管受付ができる法務局となっており、横浜市では横浜地方法務局(横浜市営地下鉄 馬車道駅近く横浜第2合同庁舎内)のみとなります。
4.遺言書の内容については法務局では質問や相談できないこと。
法務局は自筆証書遺言の方式についての外形的な確認及び保管のみを担い、遺言書の内容に関する質問や相談はできません。したがって、複雑な内容であったり、内容にご心配がある方は、別途法テラスなどの各種相談窓口、司法書士、弁護士等へ別途相談をする必要があります。
今回は7月10日から始まった自筆証書遺言の法務局における保管制度についてのメリットやデメリット、利用する際の留意点をお話ししました。
ぜひ遺言を思い立った時のご参考になさってください。